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睡眠時無呼吸症候群と筋トレの関係

筋トレの成果を左右する「入眠後3時間」と睡眠時無呼吸症候群 | 千里中央メディカルクリニック
千里中央メディカルクリニック 睡眠外来コラム

筋トレの成果を左右する「入眠後3時間」と睡眠時無呼吸症候群

先日、千里中央メディカルクリニックに、いびきを主訴として初診の患者さんがいらっしゃいました。

その方は筋力トレーニングにかなり熱心に取り組まれている方でした。
ジムに通う頻度も栄養管理も、ご自身でよく勉強されています。
それでも、「思うように体が変わらない」という感覚をお持ちでした。

睡眠検査の結果は、重症の無呼吸症候群でした。

この方に僕がお伝えしたのは、「トレーニングメニューを見直す前に、まず夜を治しましょう」ということです。
なぜそう考えたのか、今回はその理由を書いておきたいと思います。

この記事を読むとわかること
  • 筋トレの効果を左右する、成長ホルモンの分泌の仕組み
  • 「22時〜2時のゴールデンタイム」が
    正確ではない理由
  • 睡眠時無呼吸症候群が
    筋トレの成果に影響しうる理由

筋肉は、トレーニング中ではなく
眠っている間に育つ

筋力トレーニングをする人 眠っている人
筋肉が育つのは、トレーニングそのものではなく「その後の眠り」です

筋トレは、筋線維に微細な損傷を与え、それを修復する過程でより強い筋肉をつくる活動です。つまりトレーニングそのものは「きっかけ」であり、実際に筋肉が育つのは、その後の修復の時間です。

この修復を担う代表的なホルモンが成長ホルモンです。そして成長ホルモンの分泌には、あまり知られていない大きな特徴があります。

成長ホルモンは「一日一便の大型トラック」

成長ホルモンは、点滴のように一日中少しずつ分泌されているわけではありません。
日中はほとんど分泌されず、眠りに落ちてから間もなく、一日で最大の分泌がまとめて起こります。

成人において最も再現性の高い成長ホルモンの分泌ピークは、入眠直後、最初の徐波睡眠(脳が最も深く休んでいるノンレム睡眠の段階)に伴って起こります。
男性では、睡眠中の成長ホルモン分泌ピークのおよそ70%がこの徐波睡眠と重なり、そのとき分泌される量は、同時に現れる徐波睡眠の量と相関することが報告されています。

時間の目安は次のとおりです。

  • 入眠後20〜30分ごろ立ち上がり——最初の深いノンレム睡眠とともに
  • 入眠後およそ1時間ピーク
  • 入眠後3時間ごろほぼ終了——最初の1〜2睡眠サイクル

成人では、この入眠直後の分泌が、一日のうちで主要な、時には唯一といえる分泌の機会になることも多いとされています。

「22時〜2時のゴールデンタイム」は正確ではない

「22時から2時に寝ると成長ホルモンがよく出る」という話を聞いたことがある方は多いと思います。
しかし、これは正確な説明ではありません。

成長ホルモンの分泌を決めているのは時刻ではなく、眠りに落ちたかどうかです。
0時に寝ても2時に寝ても、いったん深く眠りに入れば、その後の分泌はきちんと起こります。
逆に、22時に布団に入っても眠りが浅ければ、分泌量は小さくなってしまいます。

つまり見るべきは「何時に寝たか」ではなく、入眠してからの3時間、眠りが守られていたかどうかです。

睡眠時無呼吸症候群が
成長ホルモンの分泌を妨げる

睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に気道が狭くなったり塞がったりすることで、呼吸が止まる、または弱くなることを繰り返す病気です。
大きないびきを伴うことが多く、家族や同居する方に指摘されて気づくケースも少なくありません。

この睡眠時無呼吸症候群があると、入眠直後に集中するはずの成長ホルモンの分泌が妨げられます。
理由は主に3つです。

  • 1無呼吸のたびに脳が短く覚醒し、深い睡眠が分断される
  • 2間欠的な低酸素状態が繰り返される
  • 3交感神経が夜間を通じて優位なままになる

実際に、睡眠時無呼吸症候群の患者さんでは夜間の成長ホルモン値が低いことが報告されています。
しかもこれは肥満だけで説明できるものではなく、無呼吸のない肥満の方と比べても、成長ホルモンの分泌低下と、成長ホルモンに対する体の感受性の低下がより顕著だとされています。

CPAP治療で回復するが、時間がかかる

CPAP(持続陽圧呼吸療法)の装置
CPAP治療は、睡眠中の気道の閉塞を防ぎ、深い睡眠を守ります

重要なのは、CPAP(持続陽圧呼吸療法)による治療で、この分泌が回復するというデータがあることです。

以前から、CPAPを使用した夜には成長ホルモンの分泌が増えることが小規模な研究で確認されていました。
さらに近年では、より信頼性の高いエビデンスとして、中等症から重症の睡眠時無呼吸症候群がある男性65名を対象に、本物のCPAPと、効果が十分に得られない設定にしたCPAPとを比較したランダム化比較試験が報告されています。

この研究では、CPAP治療の開始から12週の時点でIGF-1(成長ホルモンの働きを反映する指標)が上昇し、24週の時点でさらに上昇しました。
総分泌量や、まとまって放出される分泌の量、分泌の勢い、分泌の頻度についても、12週の時点で増加が確認されています。
一方で、6週の時点では、まだ有意な変化は認められていません。

6週
有意な変化はまだ認められない
12週
IGF-1・分泌量ともに増加を確認
24週
IGF-1がさらに上昇

CPAP治療を始めて1か月ほどで「効果を感じない」と使用を中断してしまう方もいらっしゃいますが、少なくとも成長ホルモンの分泌に関しては、変化が現れるまでにある程度の期間が必要だと考えられます。

「治療すれば筋肉がつく」わけではない

冒頭の患者さんの話に戻ります。

どれだけ追い込んでトレーニングをしても、修復を担うはずの分泌が毎晩妨げられているなら、トレーニング時間に対する見返りは小さくなってしまいます。冒頭の患者さんに「まず夜を治しましょう」とお伝えしたのは、そうした理由からです。

正直に書いておきたいこと

「睡眠時無呼吸症候群を治療すれば筋肉がつきやすくなる」ことを直接証明した研究は、僕の知る限りまだありません。
あくまで、①成長ホルモンは入眠直後の数時間に集中して分泌される。
②睡眠時無呼吸症候群はその分泌を妨げる。
③CPAP治療によってそれが回復する。
という3つの知見をつないだ推論です。
理屈としては素直だと思いますが、断定はできません。

筋トレをする人こそ、夜の設計を

これは筋肥大を目指す方に限った話ではありません。
サルコペニア(加齢に伴う筋肉量や筋力の低下)を防ぎ、筋力を維持したい中高年の方にも、同じ理屈がそのまま当てはまります。

むしろ、切実さは増すかもしれません。
30代から40代にかけて、24時間の成長ホルモン総分泌量は2〜3倍のスケールで減少し、同じ年代で徐波睡眠も大きく減少することが知られています。
加齢によってただでさえ細くなっていく分泌を、睡眠時無呼吸症候群でさらに妨げてしまうのは、もったいないことです。

僕自身も、筋トレに取り組むうえで、次の2点を自分のルールにしています。

入眠後3時間を守る環境をつくる:寝室の温度・光・音を整え、その時間帯にはアラームや通知を入れない
いびきや日中の眠気を放置しない:家族に指摘されているなら、自覚がなくても一度検査を受ける

まとめ

筋トレの成果は、ジムを出たあとの夜に左右されます。見るべきは就寝時刻そのものではなく、入眠してからの3時間です。

もしご家族からいびきを指摘されているなら、それはトレーニングメニューを見直すより先に、確認しておく価値のあるサインかもしれません。気になる方は、一度睡眠外来にご相談ください。

松島勇介医師
松島勇介
医療法人友広会 理事長/日本睡眠学会専門医

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いびきや日中の眠気が気になる方は、当院の睡眠外来までご相談ください。

参考文献
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