「寝酒はよく眠れる」は本当?アルコールで睡眠の質が下がる理由
僕は、週のほとんどの日に朝のランニングをしています。平日は3〜5km、休日は5〜7kmほど。ペースは1kmあたり5分50秒から6分程度で、決して速くはありませんが、続けています。
毎朝走っていると、面白いことに気づきます。走り出しの最初の500メートルで、前の晩を自分がどう過ごしていたかが、だいたい分かるのです。
よく眠れた朝は身体が軽い。逆に、食べ過ぎた朝、寝るのが遅かった朝、そしてお酒を飲んだ翌朝は、同じペースでも明らかに身体が重く感じます。
中でも際立っているのが、飲酒した翌朝の「重さ」です。今回は、アルコールが睡眠の質にどのような影響を与えるのかを、研究データと僕自身の経験を交えながら整理してみたいと思います。
- 「寝酒はよく眠れる」と感じる理由と、その落とし穴
- アルコールが自律神経や成長ホルモンに与える影響
- お酒の影響に個人差がある理由——ALDH2という酵素
- いびき・睡眠時無呼吸がある方が飲酒に注意したい理由
「寝酒はよく眠れる」は、半分だけ正しい
お酒を飲むと寝つきが良くなる。そう感じている方は多いと思いますし、実際にそのとおりです。ただ、話はそこで終わりません。
睡眠中の脳波を調べた研究をまとめたレビューを読むと、アルコールの作用は夜の前半と後半ではっきり分かれます。飲むと寝つきは早くなり、前半の眠りはむしろ安定します。ところが後半になると、今度は眠りが途切れやすくなります。中等量以上飲んだ夜は、一晩を通じたレム睡眠の割合も下がります。
入眠後から明け方まで、睡眠のリズムが比較的保たれやすい状態です。
寝つきは良くなっても、アルコールが抜けてくる夜の後半に中途覚醒や睡眠の分断が起こりやすくなります。
つまり、「お酒を飲むと寝つきが良くなる」という感覚そのものは間違いではありません。ただし、その代わりに夜の後半の睡眠を差し出していることがあります。
眠りに入る力と、眠りを保つ力は、別のものです。
アルコールを飲んだ夜は、眠っていても心拍が休まらない
眠りの質の変化は、睡眠中の心拍にも表れます。
日本で行われた研究では、平均年齢21.6歳の健康な男性10名に3つのパターンでお酒を飲んでもらい、眠っている間の心拍の揺らぎ(心拍変動)を調べています。飲む量は体重に合わせて決められていて、体重60kgの人に置き換えると「飲まない」「ビール500ml缶を1本半ほど」「その倍の3本ほど」に相当します。
自律神経には、身体を休ませる方向に働く副交感神経と、活動する方向に働く交感神経があります。結果は次のとおりでした。
- 飲まない夜睡眠中は副交感神経が働き、身体が休息モードに入りやすい
- 飲んだ夜睡眠中も交感神経が優位になり、心拍が落ち着きにくくなる
- 量が多い夜その変化は、飲んだ量に応じて強くなる
実生活に近いデータもあります。フィンランドの勤労者約4,000人を対象に、ウェアラブル機器で睡眠中の心拍を解析した研究です。この研究が注目したのは「入眠後の3時間」でした。
飲んだ量が多いほど、この時間帯の心拍数は上がり、心拍変動は小さくなっていました。機器が算出する「回復度」は、少量の飲酒で平均約9%、中等量で約24%、多量では約39%低下しています。少量でもゼロではない、という点は覚えておいてよいと思います。
時間としては眠ったはずなのに、身体は休むモードに入りきれていない。飲んだ翌朝、走り出しの500メートルで感じる重さの理由のひとつは、この夜間の自律神経の変化も関係しているのではないかと僕は考えています。
アルコールは成長ホルモンの分泌にも影響する
この「入眠後の3時間」は、筋トレと睡眠時無呼吸症候群についての記事でも取り上げた時間帯です。筋肉や組織の修復を担う成長ホルモンは、眠りに落ちてから3時間ほどの間に、一日のうちで最も多くまとめて分泌されます。
アルコールは、ちょうどこの時間帯にも影響します。
健康な成人で比べた研究では、飲まなかった夜は夜間に成長ホルモンがしっかり上昇したのに対し、飲んだ夜はその上昇が大きく抑えられていました。1980年に発表された研究でも、飲酒した夜は成長ホルモンの分泌が少なくなっていました。
筋トレやランニングのあとに「お疲れさまの一杯」を楽しむ方も多いと思います。気持ちはよく分かりますが、身体の修復という点では、少しもったいない組み合わせなのかもしれません。
「身体がアルコールの分解に追われるから、成長ホルモンが出なくなる」と単純に言い切れるわけではありません。研究から言えるのは、アルコール摂取によって、本来睡眠中に起こるホルモン分泌のリズムが乱されるということです。
お酒の影響には大きな「個人差」がある
ここまで紹介してきた研究を読むときに、知っておきたいのがお酒の分解能力の個人差です。特に、日本人を含む東アジアの人々ではALDH2という酵素の働きに大きな違いがあります。
最初の段階を担うのがADH(アルコール脱水素酵素)、次の段階を担うのがALDH2(アルデヒド脱水素酵素2型)です。
ALDH2には遺伝的な個人差があり、日本人では、活性の高い型がおよそ56%、活性の低い型がおよそ40%、活性をほとんど持たない型がおよそ4%とされています。
同じ量のお酒を飲んでも、ALDH2の活性が低い型では血中のアセトアルデヒド濃度が高くなりやすく、顔が赤くなる、動悸がする、翌日に不調が残るといった反応も強く出ることがあります。
たくさん飲んでも翌日にほとんど影響が残らない人がいる一方、少し飲んだだけで顔が赤くなり、翌日まで不調を引きずる人もいます。これは単に「飲み慣れ」の問題だけではなく、アルコールを分解する酵素の違いも関係しています。
僕自身は、こう考えています
顔の赤くなり方や翌日の体調だけでALDH2の型を断定することはできませんが、僕自身は活性が低いタイプなのかもしれない、と感じています。この記事を書きながら、近いうちに遺伝子検査を受けて確かめてみようと思いました。
実際、3杯飲むとかなり酔いますし、5杯飲んだ翌朝は自分でもはっきり分かるくらいしんどく、後悔します。一方、1杯程度であれば、翌朝の走り出しはいつもとあまり変わりません。
そこで僕自身は、翌朝の体調を見ながら次のようなルールを決めています。
「3杯までなら大丈夫」という意味ではなく、あくまで僕自身の経験から決めた個人的なルールです。一般論としては、純アルコール量が少ないほど、また就寝までの間隔が長いほど、睡眠への影響は小さくなると考えられます。
純アルコール20gは、目安としてビール500ml(5%)や日本酒1合程度に相当します。
いびき・睡眠時無呼吸がある方は、飲酒にさらに注意が必要です
アルコールの影響は、「眠りが浅くなる」だけではありません。いびきや睡眠時無呼吸症候群がある方では、睡眠中の呼吸にも影響します。
アルコールには、のどの周りの筋肉をゆるめる作用があります。眠っている間は、ただでさえ空気の通り道(気道)が狭くなりやすい時間です。そこにアルコールが加わると、いびきや無呼吸が起こりやすくなると考えられています。
複数の研究をまとめた解析では、お酒を飲んだ夜は、1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(AHI)が増え、睡眠中の血液の酸素の値(酸素飽和度)も下がっていました。この増え方は、もともといびきをかく方で大きく、睡眠時無呼吸症候群のある方ではさらに大きくなっています。
「お酒を飲んだ日は、いびきがいつも以上にひどいと言われる」「飲酒した翌朝は頭が重い」「十分寝ても眠い」という方では、単なる二日酔いだけでなく、睡眠中の呼吸が関係している可能性もあります。
まとめ
この記事で伝えたいのは、「お酒をやめましょう」ということではありません。
ウェアラブル端末をお持ちであれば、飲んだ夜と飲まなかった夜とで、安静時心拍や心拍変動を比べてみるのも面白いと思います。
飲む夜を選ぶ。飲まない夜を選ぶ。量を決める。時間を決める。
誰かに管理されるのではなく、自分の身体がどう反応するのかを知ったうえで選ぶ。翌日もいつも笑顔で、元気に過ごすために。まずは自分を知ることを、大事にしていただきたいと思っています。
いびき・睡眠の質が気になる方へ
「しっかり寝ているのに疲れが取れない」「いびきを指摘される」という方は、睡眠時無呼吸症候群が隠れていないか一度確認してみませんか。
- Ebrahim IO, Shapiro CM, Williams AJ, Fenwick PB. Alcohol and sleep I: effects on normal sleep. Alcohol Clin Exp Res. 2013;37(4):539-549. doi:10.1111/acer.12006
- Feige B, Gann H, Brueck R, et al. Effects of alcohol on polysomnographically recorded sleep in healthy subjects. Alcohol Clin Exp Res. 2006;30(9):1527-1537.
- Sagawa Y, Kondo H, Matsubuchi N, et al. Alcohol has a dose-related effect on parasympathetic nerve activity during sleep. Alcohol Clin Exp Res. 2011;35(11):2093-2100. PMID: 21848959
- Pietilä J, Helander E, Korhonen I, et al. Acute effect of alcohol intake on cardiovascular autonomic regulation during the first hours of sleep in a large real-world sample of Finnish employees: observational study. JMIR Ment Health. 2018;5(1):e23. doi:10.2196/mental.9519
- Ekman AC, Vakkuri O, Ekman M, et al. Ethanol decreases nocturnal plasma levels of thyrotropin and growth hormone but not those of thyroid hormones or prolactin in man. J Clin Endocrinol Metab. 1996;81(7):2627-2632. PMID: 8675588
- Prinz PN, Roehrs TA, Vitaliano PP, Linnoila M, Weitzman ED. Effect of alcohol on sleep and nighttime plasma growth hormone and cortisol concentrations. J Clin Endocrinol Metab. 1980;51(4):759-764.
- Peng GS, Yin SJ. Effect of the allelic variants of aldehyde dehydrogenase ALDH2*2 and alcohol dehydrogenase ADH1B*2 on blood acetaldehyde concentrations. Hum Genomics. 2009;3(2):121-127.
- 樋口進 編. アルコール臨床研究のフロントライン. 厚健出版; 1996.(日本人におけるALDH2型の頻度分布について参照)
- Kolla BP, Foroughi M, Saeidifard F, Chakravorty S, Wang Z, Mansukhani MP. The impact of alcohol on breathing parameters during sleep: a systematic review and meta-analysis. Sleep Med Rev. 2018;42:59-67. PMID: 30017492









